After Story
夕暮れ時。久しぶりに足を運んだ4-1の教室にそいつはいた。机の上に立って、天井に貼ってある飾りをはがしている作業中に俺と目があった。
「おーい水元、そういえばお前、魚の解剖が全然できなかったよな〜。20になった今でもできなかったら恥ずかしいぞ〜!だから今日は10年ぶりに魚の解剖をする!」
10年ぶりに再会したというのに
まるでこの前まで一緒にいたかのように
馴れ馴れしく、大きな声で話しかけてくる。
「10年も前の話なのに、なんで俺が解剖苦手だったこと覚えてるんですか」
思わず笑ってしまいながらそいつに言う。
笑ってごまかしてはいたけど、本当は泣きそうだった。いや、なんで10年前の1人の生徒が、何を苦手にしてたかなんて、覚えてるか普通。
「じゃあ名大生の解剖技術とやらを見せてもらおうじゃないか」
「のぞむところですよ」
こうして久しぶりの再会の時間を惜しむ暇もなく俺とそいつは、理科室へと足を運ぶ。
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「なぁなぁ、先生〜。全然うまくできん」
これはウソ。本当は先生の説明を聞いていなかったから何をすればいいかすらも分かっていない。なにより、なんで魚の解剖するのかも分からない。魚は食べるものだ。給食まだかなあ。
「そりゃお前が先生の話を聞いてないからだろ」
なんて言いながらも、俺の元へ来てもう一度丁寧に説明してくれる。え、魚の解剖めっちゃ面白そうやん。たのしそう。そんなん俺でもできるわ。
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「全然できんわ〜!つまらんかった!」
これはウソ。上手くはできなかったけどすごく面白かった。楽しかった。
「ウソつけ。本当はクラスでいちばんお前が楽しんでたぞ。じゃあまた今度リベンジしようか。お前が一番才能ありそうだったからな」
「はいはい、また今度な〜」
カンタンにバレそうな照れ隠しをして、教室へと戻っていった。
ゲームが好きで、勉強が嫌いだった少年が、ゲーム以外で初めて何かを楽しいと思えた日。
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