『感性の死』
小学3年生の年の誕生日。
僕はハムスターを飼い始めた。
僕も妹も動物が大好きで、ペットショップに行けばいつまででも動物たちを見ていられた。
僕の家はマンションだったから、犬や猫は飼うことができなかった。
でも、ハムスターみたいな小さな動物なら飼うことが許された。何回も何回も僕と妹で、お父さんとお母さんにお願いした。
僕は「レオン」という名前を。
妹は「レイ」という名前を。
それぞれ、自分たちのハムスターに名付けた。
二匹ともオスだった。
僕のレオンは凶暴で、少しでも指を近づけると
飛びかかって噛みついてくる。なんども僕は指をやられた。ぐるぐる回る風車みたいなハムスターの遊具を、ひたすらに走っていた。
妹のレイは優しい性格だった。もちろん指で触れれば、噛みついてくるんだけれど、レオンよりは優しい噛みつきだった。いつも遊び道具はレオンに横取りされていた。
僕と妹は、いつまででもレオンとレイのゲージを眺めていた。
◆◆◆
いつからだろう。
僕が動物を飼いたいと思わなくなったのは。
おじいちゃんの家で犬を飼うってなった時も
僕だけは最後まで喜ぶことができなかった。
動物が嫌いになったなんてことは全くない。
でも、いつからか、心から可愛がれなくなっ
た。
正確に言うと、可愛がるのが怖くなったのだ。
僕は、レオンがいなくなったあの日から
誰かを愛するということができなくなった。
大切な存在が自分の前からいなくなることが
怖くて仕方がなかった。
◆◆◆
僕のことを好きだと言ってくれた人は何人もいた。
僕も、その人のことは嫌いじゃない。むしろ確かに「好き」という感情はある。
でも、どうしても好きになりきれない。
一緒にいても特に何も感じない。
手を繋いでも、抱きしめ合っても
それらはただ、相手のことを好きだと示すための行為でしかなかった。
僕は、誰かを愛するという感情を失った。
◆◆◆